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山腰修三さん

山腰修三のメディア私評

 2016年の米大統領選では「ポスト真実」という言葉が注目された。伝統的なジャーナリズムや科学など専門的な言説に対する信頼性が低下し、フェイクニュースや陰謀論が影響力を持つようになった状況を指す概念である。その後、事態はさらに深刻化し、今や私たちはポスト真実が常態化した世界に生きている。

 周知の通り、SNSは一連の状況を生み出した、あるいは悪化させた要因としてしばしば批判されてきた。それゆえポスト真実への処方箋(せん)もまた、SNS上の偽・誤情報への対策として検討されている。すなわち、ファクトチェックの推進、メディアリテラシーの向上、そして法的規制である。昨年の国内の選挙をめぐる諸問題から危機意識を高めた日本の伝統的メディアでも、ファクトチェックこそがポスト真実に対してジャーナリズムが果たすべき役割だという考えが共有されつつあるように見える。

 SNSで流通する情報やそれを可能にするデジタル環境に問題があることは間違いない。とはいえ、ここであえて問いたいのは次の点である。ポスト真実の常態化に対してジャーナリズムが取り組むべきは、果たしてファクトチェックだけで十分だろうか?

 ポスト真実の成立にはメディ…

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